恵比寿 賃貸の新サービス開始
だが、かりにそうであったとしても、一人あたり三分以内という短時間で大勢の受診者を対象としなければならない検診では、その程度の腫痛を見落としたことは直ちに過失とまではいえなたとえ検診で異常がないといわれたとしても、少なくとも月一回は自己検診し、年一回は専門医の診察を受けることが勧められる。
そして、触診に頼るだけでなく、乳房X線検査(マンモグラフィーという)や、超音波検査などで確認するようにしたほうがよい。
検診を担当する医者の側も、より気を引き締めて検診に当たるべきだ。
と同時に、検診を受ける側にも、検診の限界を理解していただき、注意をしてもらいたい。
せっかくの検診をいかに有効に活用し、健康の管理に役立てるかこそが重要なのだ。
乳ガンの早期発見は、触診が第一だ。
だから、ガン検診でも触診がおこなわれる。
だが、いくら経験のある医者とて、手の感覚だけでいつも正しく診断できるとも限らないだろう。
やはり、診断の精度には限界があることを認めないわけにはいかない。
実際、大学時代の同級生である女医が、乳ガンのために四八歳の若さで他界した。
医者である彼女は、人一倍乳ガンに気をつけ、自分の胸をしばしば触診していたそうだ。
それでいても、乳ガンに足元をすくわれてしまったのだった。
こうしたことがないようにするには、やはり検診の結果だけを縛浄みにせず、自己管理が重要だと思う。
これは、著者が診療を担当している患者さんから聞いた話だ。
健診で異常を見落とされたというのではなく、健診でてっきり肺ガンと思われてしまった寄生虫症の例である。
彼女のご主人が人間ドックを受けたそうだ。
そのとき、胸部レントゲン検査で肺に異常な陰影があると指摘されたという。
人間ドックを担当した医師は、肺ガンの疑いが濃厚である。
すぐにでも精密検査を受けるように指示をした。
受診者も医者も、「落とし穴」には十分に気をつけたいものだ。
それを聞いて泡を食った患者は、あわてて自宅近くにある大学病院に駆け込んだ。
大学病院の医者は、患者が持参してきた写真をとくと見た。
そして、やはり肺ガンを疑った。
肺ガンのように丸い陰影がくっきりと肺の中に認められたからだった。
すぐにCT検査、疲の細胞診、そして気管支内視鏡検査などをおこなった。
が、いくら精密検査をしても、肺ガンという確証がつかめない。
さりとて、肺ガンではないという証拠もない。
思案に明け暮れたあげく、問題の部分を手術して検査してみましょう。
医者と患者はそう話しあって、手術をすることになった。
医者が無理強いしたわけではけっしてなかった。
よく話しあった結論として、陰影のある肺の一部分を、手術で切り取ることになったのだ。
たとえガンであったとしても、その肺の部分を切り取れば、治ることが十分に期待できる。
この患者の場合のように、ガンと思われる所見があったにしても、はっきりとした診断がつかないことがよくある。
こうした際、診断することを目的として、手術に踏み切らざるをえないことも少なくない。
それは、医者の責任だけを責められないだろう。
というのも、現在の医学医療をもってしても、ガンかガンでないかの判断に苦慮することはしばしばあるからだ。
さて、そのようにして手術をおこない、取り出した臓器を顕微鏡でよく観察し、ガン細胞があるかどうかを見極めることになる。
この検査で、ガンかどうかが最終的に確認できることになるのだ。
その寄生虫は、もともと人間でなく、犬に寄生するものだった。
それがどういうわけか人間のからだに巣くった。
しかし、人間のからだでは生きられない。
こうして人間の肺の中で死に絶えたのだ。
あげくに、死骸がその周りの肺にも炎症を起こし、肺ガンかと思わせるような陰影を写し出したのであった。
犬とまちがって人間様にとりついて死んだ寄生虫も哀れだが、とりつかれた人間も可哀想だ。
ガンでもない肺をガンとまちがえられて切り取られたのだから。
このように、健診とは限らないが、検査の結果が常にシロかクロか、判定できないことがあこの、ように、くだんの患者の肺も手術がおこなわれ、早速に切り取られた肺の部分が顕微鏡で調べられた。
ガンではなかった。
ガン細胞のかわりに、何と、肺に寄生虫がいたのだ。
といっても、生きているわけでなく、死んでいたのだった。
死んだ寄生虫のまわりの肺の組織が炎症を起こし、レントゲン写真であたかも肺ガンのように写ったにすぎない。
もちろん、医療技術の進歩で、こうした誤りはいずれはなくなるではあろう。
だが、いつになっても、医療に限界は残るとも考えられる。
健診にしても、そうした限界を理解したうえで、利用していただきたい。
相談を持ちかけた患者も、そのように話すと、納得していた。
ところで、寄生虫なんて過去の病気と思われがちかもしれない。
実際、著者が小学生のころは、回虫を持っている子供がやたらと多く、毎年一回は回虫駆除を学校でやったものだ。
「海人草」というきわめて不味いものを飲んで駆除していた。
だが、最近は回虫なんて滅多にお目にかからない。
回虫のほかの寄生虫も少ない。
著者にしてたって潜むのだ。
だが、忘れたころにやってくるのが、災害だ。
寄生虫による病気が今になって脚光を浴びることがある。
とくに交通機関が発達し、自由に海外を行き来できるようになったことが寄生虫症の復興の最大の原因となっている。
健診とは話がずれるが、ご容赦願いたい。
寄生虫のことも知っておいていただきたいので、ここで著者が経験した重症の寄生虫症の話を紹介しておこう。
まずは、糞線虫という寄生虫の話だ。
糞線虫は、熱帯もしくは亜熱帯地方にいる虫で、ふだんは土壌の中に潜んでいる。
成虫でも二○五ミリメートルくらいという長さのごく小さな細い虫だ。
それが裸足で歩いたりすると、足の皮周を食い破って侵入することがある。
体内に侵入したとしても、めったなことでは問題にならない。
下痢をすることもあるが、ほとんどの場合にはまったく症状もなく、人間さまの中で影を潜めていることになる。
数十年にもわ七○歳の男性が鼠径部のリンパ節が腫れたといって入院してきた。
二○年以上にわたって医者稼業をしているが、回虫症の患者を診察したことはほんの数えるくらいしかない。
早速に検査をしてみたら、リンパ節のガンである悪性リンパ腫であった。
しかも進行していた。
となると、治療は制ガン剤を使った化学療法が中心になる。
著者は診療の合間に、彼の経歴を尋ねてみた。
経歴を尋ねることは、しばしば重要であるからが多い。
すると、彼は第二次世界大戦中にマレーシアにあるパガン島というところに出征していたという。
暑いジャングルの中を駆けずり回ったそうだ。
苦労話にしばし花が咲いた。
が、まさか、戦後五○年にして、パガン島がきっかけで戦死する運命になろうとは、そのときには彼も著者も、まるで思いもよらなかった。
そもそも悪性リンパ腫という病気は、異物の侵入を防ぎ、免疫の要となるリンパ節がガンになったものだ。
患者は化学療法を受け、ほとんど完治する寸前のところまできていた。
患者も著者も、あと一それでも感染症などを起こさずに乗り切ることができれば、ガンといっても治ってしまうこと免疫能力が極端に落ちる。
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